ロータリーの話

ロータリーはホルンの中で一番大切な部分です。
ロータリーの状態が良ければ機密性も高く、古い楽器でも十分使えるのです。

ロータリーはとても重要な部品

ホルンにはいくつもの円筒形のパーツ、いわゆる「ロータリー」が付いています。ロータリーは現代使われているホルンの部品の中で、最も重要なものです。たとえば、ロータリーの不具合が原因となる症状のうち主なものを挙げてみると…。

・息が漏れる感触がある
・妙な抵抗が出てきた
・ロータリーが動かない。または動きがニブい

金管楽器の寿命は、楽器本体の金属疲労次第といえる部分もありますが、実際には、このロータリーの寿命による部分もあります。特にメンテナンスもせずに長年酷使した楽器はロータリーに深刻なダメージが蓄積され、満足に吹けなくなっている状態いなってしまったものもあります。もちろんロータリーの不具合以外にも管体の歪みやキーメカニズムのトラブルなどロータリー以外にもいくつか原因が考えられますが、ロータリーの不具合が原因となる楽器のトラブルは、かなり多いということを念頭に置いておくべきです。

中古の楽器を購入する時には、外見やレバーを押さないで吹いたオープンの音だけでなく、全てのロータリーの機密性も確認するとよいでしょう。例えば、レバーを押さないまま抜き差し管を抜き、ある程度抜いたところでレバーを押してロータリーを回します。そうすると、「ボンッ」とか「ポンッ」という音がします。その音がしっかり鳴れば、一定以上の気密があるということになります。ちなみに、普段はあまりやってはいけませんよ!

始めに了承してください

本ページは自分でロータリーを分解して整備することを推奨するものではありません。普段は見ることができない部分がどうなっているのかを知っておくだけでも、日常の取り扱いに当たって意識が変わるものです。ロータリーは非常に精密な部分であり、ちょっとしたミスで二度と使い物にならない楽器にしてしまう可能性があります。基本的に、ロータリー周りのメンテナンスを行う際には、プロであるリペアの専門家にお願いしましょう。

以下の写真や記事は楽器製作・リペアのマイスターの指導の元、私が行った作業の記録です。一通り監修を受けていますが、万が一に不正確な情報があった場合は掲示板かメールでご指摘ください。すぐに訂正致します。

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ロータリーの構造

ロータリーの基本的な構造図。パーツごとに色分けされています。

ロータリーの構造を簡単に図示すると右イラストのようになります(ダブルホルンの例。実際にはメーカーによってローターやキャップなどの形状が異なりますが、大体は右のようになっています。ワグナーテューバ、ロータリートランペット、トロンボーン、コントラバステューバ、いずれもロータリーを搭載している楽器であれば基本的に構造は同じです。もちろんトランペットやトロンボーンのように1階建て、ホルンやテューバのような2階〜3階建て、の違いはありますけれど。

一見、金属の重い塊で頑丈そうにみえるローターですが、くびれた部分を見ると数ミリ程度で非常に薄くなっているのが分かります。これではちょっとしたショックを与えただけで曲がって折れてしまいます。万が一落としてしまったら、パキンと折れてしまうでしょう。ロータリーは手作業で一つひとつ擦り合わせして仕上げています。同じモデルでもロータリーの互換性はまずありません。そのためロータリーを破損してしまったら楽器そのものを買い換えるしかありません。最後の手段として工房でローター製作という方法がありますが、それをできる工房は日本・世界でも限られています。

 

ロータリーのどこに錆ができるのか

サビが発声しやすい部分を赤線で示しています。

ロータリーが錆びるときは、目に見えないところから錆びていきます。チューニング管から覗いて「まだ緑色じゃないから大丈夫」と思っても、それは正しくありません。具体的には、右図の赤線の部分に錆が発生しやすくなっています。目に見えない場所であり、軸を通って外部にはみ出してきている時は、よほどひどい状態であると考える必要があります。

ロータリーがモサモサ重くなったり、停止してしまうような場合は、まず右図の赤い場所にサビが発生し、固まってしまっていると考えられます。側面は意外と錆が発生しません。またロータリー側面は回転体が浮いている状態にあるので、ミクロン単位の隙間があるので、仮に錆が発生しても動きに支障が出るまでには時間がかかります。

一方で、軸の部分は金属と金属で接触しており、隙間はほとんどありません。錆が発生し始めると、すぐに動きに影響が現れます。動きが重くなったり、止まったりするようになるでしょう。

いざロータリーを分解

ロータリーを分解する様子。ある程度の知識と工具が必要。

ロータリーの動きがモサモサしてきたり、サリサリと砂っぽくなってきたり、押したまま戻らなくなってしまったりすることがあります。オイルを注しても直らなければ、ロータリーに何らかの異常が発生していると思われます。そうなったら、ロータリーを分解して処理するしかありません。その状態でザリザリと動かすことだけは止めましょう!動かせば動かしただけロータリーにダメージが蓄積していきます。

十分な知識をお持ちで無い方は、決して自宅のドライバーだけで無理やり開けたりしないでください。ローター本体をダメージを与えずに抜き取るためには工具や知識、経験が必要です。また、一度開けたロータリーは閉じなければなりません。この時にも専門の工具やコツが必要です。なお、この記事を読んで自分で試し、万が一、二度と使い物にならない楽器になってしまっても当方では責任を持ちません。ご自分で分解整備をなさる場合は、自己責任でお願いいたします。

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錆が発生したローター

極端にサビが発生している、HOLTON H281のローター。

右図はしばらく使われなかったホルトンのローター(回転体)です。このようになっていると、頻繁にロータリーが止まるようになります。レバーを押せばザリザリとした嫌な感触が感じられます。この楽器の場合、ロータリーキャップを開けてみても、緑色の緑青がキャップの中まで侵食していました。一刻を争う緊急事態です(ちょっとオーバーですが)。

ちなみに、これは購入したての新品の楽器であっても、半年間でコレに近い状態になることもあるようです。しかし残念ながら、このような状態で楽器を使い続けている人が多いのが現状です。

緑色のモノは銅の「緑青(ろくしょう)」です。多くの楽器の素材である「真鍮」は「銅」と「亜鉛」の合金であり、緑青というサビはその銅が酸化して生じる緑色の錆ことです。実は銅の錆は被膜となって銅の侵食を防ぐための防御壁になります。銅像が風雨に晒されながらも長持ちするのは、緑青という保護被膜が発生して銅を守っているからです。

この緑青は、化学的には塩基性炭酸銅といわれる化合物で、錆の一種です((社)日本銅センターによる)。なお、緑青は猛毒であるという認識がありますが、実は緑青は無毒で安全なものという結論が出されています。 詳細については、(社)日本銅センターの「安全な銅」を参照してください。手で触れても何も問題はありません。

緑青は無害で、しかも銅を守る役割がありますが、一方で発生した緑青は精密な構造であるロータリーのスムーズな動きを阻害します。従って、楽器のためには緑青は除去しなくてはいけません。

錆取り処理を行う

薬品でサビ取りを行ったリコキューンW2931のローター。

ローターに発生している錆がどんなに頑固でも、決してドライバーやペーパーヤスリ、棒ヤスリなどで削り取らないで下さい。錆を取り除くためには、酸を使用します。その後、かならず中性洗剤などで、徹底的に酸が取れて無くなるまで洗います。酸が残っていると腐食が進行するからです。右の写真は真鍮の地肌が出てきれいになったローターです。ちなみに、使用する酸は工房によってさまざまです。ここではお教えしないことにします。

なお一般家庭では「ポッカレモン」や「酢」を使うと良いでしょう。効力は弱めですが、クエン酸やお酢の持つ還元作用が働いて錆が無くなりキレイになります。取り扱い上も問題はほとんど起こりません。それぞれストレートで使っても良いし、半分程度に希釈しても使えます。ポッカレモンやお酢は効果が緩やかなので楽器への影響を最低限に抑えることができ、長時間の漬け置きも可能です。うっかりリ処理中に眠ってしまっても大丈夫(笑)

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