楽器は音楽で表現するうえで大切な相棒であると同時に高価な芸術品です。
ホルンはとてもデリケートな楽器ですから、日々のメンテナンスが欠かせません。(最終更新 2009.1.4)
−日常の手入れ編−
楽器は毎日手入れをしてあげれば長持ちします。一方で長い間触れられずに放置されたり、不適切・乱暴な扱いを受けた楽器はすぐにダメになってしまいます。しかし残念なことに、日常的な最低限の楽器のメンテナンスの方法すら知らない人が多いのが現状です。
よく知られている方法が、実は楽器に深刻なダメージを与えるものであることがあります。また、アマチュアのWebサイトで公開されている情報の中には楽器に取り返しがつかないダメージを与えてしまう内容が公開されています。また学生(中学〜大学。社会人も)の楽器の扱い方をみてみると、「正しい」という扱い方、メンテナンスをしているケースは残念ながら稀(まれ)です。「先輩から教わった」というメンテナンスは、まず間違いなく間違っていると思っていていいと思います。
そうした取り扱いをしないためには、楽器のオーナーである使用者自身が最低限の知識を身に付ける必要があります。「ホルンの森」では、そのための情報を公開しています。
以下では、楽器を吹いた後にやっておくべき日常的な手入れを紹介します。
禁止事項、というほど危ないわけではありませんが、避けた方がいいのが、
・楽器を水に漬ける
・
ロータリーの中に水を通す
・トンカチで叩いてロータリーを出し入れする
などです。
まず、水に本体を漬けるのであれば、その前にロータリーを分解して取り出す必要があります。
次に、ロータリーの中に水を通してはいけない理由は、ロータリー内部の空洞に水を入れないためです。オイルがロータリーに充満していれば問題ないのですが、一旦ロータリー内部に水が入り、水でロータリーが回っている状態になってしまうと、ちょっとした間にサビが進行し、固着してしまうことがあります。市販のブラスソープなどを使うのはマウスパイプだけで十分です。それも、メインチューニングを抜いたうえでフレキシブルクリーナーなどを使って丁寧にやりましょう。
ロータリーをトンカチで叩くのは論外です。アマチュアのWebサイトではそのような行為が掲載されていますが、決してやってはいけません。最悪の場合、ローター(回転体)が折れて、楽器がジャンク品になります。
ロータリーを取り出す過程では、ハンマーを使って取り出す工程がありますが、どんなハンマーであっても楽器の金属部分を直接叩くのは絶対に避けましょう。いくつかのWebサイトの資料では、ロータリーの軸を直接に樹脂ハンマーで叩いている例がありますが、決してやってはいけません。かならず、ハンマーとロータリーの間には、楽器素材の真鍮を傷つけない「木片」や「真鍮のキャップ」を使用してから行います。
専門の工房などで指導を受けていないのなら、自力でのロータリー分解は避けましょう。どうしても、というならは、自己責任でご自由に。ただし、ちょっとしたミスで楽器の価値をゼロにしてしまう可能性があることをお忘れなく。
ケースを開けたら、出し入れの際はぶつけてしまいやすいので、取出しには充分な注意を払います。
余談ですが「本番直前にメンテナンスするな」と言われるのは、出し入れやオイルを注しているときに楽器をぶつけたり、落としてしまったり(!)する人が多いからです。
また、中途半端な手入れを行うと、どこかに溜まっていたホコリなどのゴミが妙なところに入り込んでロータリーが動かなくなってしまうケースもあります。ですから、日常的なメンテナンスを行ったうえで、本番が無事に終わってからじっくり楽器をいたわってあげましょう。
ロータリーの裏側です。軸の部分に「ヘットマン14番」のような粘度の高いオイルを使います。別にホルトンオイルのようにサラサラなものでも全く構いません。
この楽器(キューンW293)はご覧の通り軸の部分が一段引っ込んだデザインになっています。このような場合はヘットマンのように細いノズルがあるものを使う必要があります。最初は何とかホルトンオイルを垂らそうとチャレンジしていましたがダメでした…。
使用したオイルは「ホルトン ロータリーオイル」「ヘットマン 14番」です。下に紹介してあります。
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1〜3番の抜き差し管を抜き、ここから重力に任せてロータリーに「ホルトン ロータリーオイル」を垂らします。筒の内面にはグリスが付いていますから、なるべくフチに触れさせないようにするといいかもしれません。量は各管に1〜2滴程度を注しています。
ここでは写真がありませんが、F/B切り替え管にはメインチューニング管から注します。
クルスペタイプとクノッフ/ガイヤータイプでは方法が異なりますので、自分の楽器の巻き方をよくみて、どうやったらオイルが的確に到達するかを考えましょう。注しすぎても平気ですから、どばっと5滴くらい垂らしても平気ですよ。
ロータリーキャップを外し、軸にロータリーオイルを1滴(中央の軸にこんもり盛るくらい)程度を注します。注すと言うよりは、静かに垂らしてオイルの山を作るというイメージです。そうしたらすぐにキャップを閉めないでしばらく動かさずに放置します。
固まった状態で無理してロータリーを回すと、何とか重いながら(「ザリザリッ」と言いながら!)回転することもあります。これは一時的には復帰したように見えますが、ザリザリ音は、それだけロータリーをキズつけている音です。そのまま使用していると、ロータリーはキズだらけになってしまい、機密性が低下して音程も悪化し、さらなる深刻な固着を招いてしまうことがあります。こうなってしまうと、もうプロの力でもどうにもならない状態になってしまいます。早めの正しいメンテナンスを行うか、金管楽器専門の修理工房に依頼しましょう。
ロータリー洗浄の相場は、工房にもよりますが、フル洗浄が約5000円(ロータリー1個当たり)、簡易洗浄が約2000円(同)です。早めのメンテナンスが余計な出費を抑えます。
ここでモデルに使ったのは、リコ・キューンW293です。構造的に古いのでヤマハやコーン、ホルトンなどと比べると少し手入れが面倒で、楽器の特性をよく理解している必要があります。
この楽器はラッカーがかかっていないいわゆる「ノーラッカー」です。指紋や汗などが付着したところから数時間で色が変わってしまいます。なので、毎日帰宅したら水ぶきしています。それでも色が変わっていっちゃうんですけどね。ただし、中性洗剤のあとで水吹きするだけでも、光沢は出ます。
※楽器の分解掃除編もあります。こちらはある程度の知識と専門の工具が必要です。自宅や学校で気軽に行わない方がいいでしょう。万が一ロータリーを落としてしまったら、もうその楽器は使い物になりません。
>>楽器の分解掃除編
最近の楽器はほとんどがラッカー処理されています。楽器が完成したらバフで研磨して輝きを出すのですが、それでピカピカになったところでラッカーをかけます。これによってラッカーが剥げない限りはピカピカなままです。
※羽布研磨:羽布のホイールを高速回転させて研磨する方法
ラッカー楽器の表面の手入れは簡単です。YAMAHA「ラッカーポリッシュ」をガーゼなどに付けて楽器を拭き、渇いたところで別の綺麗な布(なんとかクロス)で丁寧に磨きます。これを1〜2週間に1度程度繰り返せば、当分は綺麗なままです。
手や服などでこすれてラッカーが剥げてくるとそこから酸化して金属に影響が出るのですが、その時は諦めるか、マニキュアを塗るという方法もあるそうです。まぁ、いつまでもピカピカよりは、ある程度使いこなしたら変色してたほうが貫禄が出ますけどね〜。
ノーラッカーの楽器は、文字通りラッカーがかかっていないので真鍮の地肌が剥き出しです。ナチュラルホルンやウィンナホルン、フレンチホルンでいうとクルスペやキューンなどハンドメイドのホルンにはノーラッカーのモデルが多いのです。
ノーラッカーの楽器は、ラッカーによって保護されていないため、ほっておくとどんどんと色が変わっていきます。それが良いというのもありますが、いずれにしても綺麗なほうが使っていても気持ちがいいですよね。
一応、ヤマハ「メタルポリッシュ」などがノーラッカー用の手入れ用品です。これをガーゼなどにつけて磨く訳です。ちなみにピカールを使ってもOKです。私は「青棒」というのを使っています。
一度これらの楽器を使って手入れしておくとラッカー楽器のような光沢がでます。アルミやステンレスなど金属加工でいうところの「鏡面仕上げ」という処理です。
※注意:研磨という作業は金属の表面を「削って」輝きを出す処理です。当然、研磨すればするほど金属は薄くなります。最悪の場合は穴が開いてしまうこともあるため、やりすぎには注意しましょう(自己責任でお願いします)。
参考までに。表面磨き前 磨き後(下の写真と同一です)
ノーラッカーの楽器は、湿気ですぐに酸化してしまいます。そこで、酸化の原因である水分、脂肪分を取り除いてケースにしまいます。
具体的には、洗面所や樹脂製のオケの中に中性洗剤を泡立てたぬるま湯を用意し、中性洗剤の溶液を含ませた布で拭きます。ベルとかはかなりベチャベチャとやってしまってOKです。
次に、水を含ませて次に硬く絞った布で拭きます。ゴシゴシと擦って(もちろん楽器が歪まずにキズもつかない程度ですよ)洗剤を落します。水滴が残らないように拭き取ったら、陰干しのように乾燥させ、ケースに仕舞います。
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私が使ったオイルです。左が「ヘットマン」、右が「ホルトン ロータリーオイル」です。ヘットマンは買ったばかりで詳しくないのですが、粘性が高いので裏側の軸に使います。ロータリー内部には使わないようにしましょう。ホルトンはガソリン臭がしますが私は慣れてるので平気です。気になる人はジュピターでも何でもサラサラのものであれば何でもいいでしょう。
(2009年1月追記)
最近はロータリーオイルについて、ホルトンではなくヘットマン11番を使用しています。
(注)オイルとは違いますが、スライドグリースに「セルマー」の赤い液体状のグリスを使っている人をよく見かけます。セルマーのグリスはもともとサックスなど木管楽器のコルク用です。または分解が容易なピストン楽器のためのグリスです。ロータリー楽器のチューニングスライドに使うと、簡単にロータリー内部に流れ込み、固着の原因となることがあります。
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